夏の読書感想文3「じゃじゃ馬ならし」

シェイクスピアの喜劇「じゃじゃ馬ならし」を、小田島雄志氏の訳で読みました。

じゃじゃ馬ならし  シェイクスピア全集 〔7〕 白水Uブックスじゃじゃ馬ならし シェイクスピア全集 〔7〕 白水Uブックス
(1983/01)
ウィリアム・シェイクスピア

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 イタリアはパデュアの富豪の娘・キャタリーナは、親もほとほと困り果てる乱暴者。ヴェローナからやってきた若者ペトルーチオは「じゃじゃ馬」キャタリーナの財産に目をつけ、強引に口説き落として妻にしようとする…。

 ウィキペディアには「明白な女性蔑視」「特に終わりの部分が不快」とあったのでどんな問題作なのかと思って読んでみたら、不快どころかとても面白かったです。

 まずキャタリーナですが、最初の彼女の乱暴ぶりは同性から見ても常軌を逸しており、対照的におとなしい妹ビアンカの求婚者に悪態をつくわ、ビアンカを殴るわ、単なる男嫌いというレベルではありません。しとやかなビアンカばかりが父に可愛がられることへの不満で、始終誰かに八つ当たりしているという状態です。

 そこへペトルーチオがやってきます。ペトルーチオの目的はキャタリーナと結婚すれば手に入る持参金ですが、キャタリーナのじゃじゃ馬ぶりを聞いた彼は思わずこう口にします。

うむ、なかなか生きのいい娘さんらしい!
聞いただけで今までの十倍も好きになった。
ああ、一刻も早く会って話をしたいものだ!

(原文)
Now, by the world, it is a lusty wench;
I love her ten times more than e'er I did:
O, how I long to have some chat with her!


 この台詞はわざとではなく自然に出たものという感じが私はするのですが、ペトルーチオはもともと気の強い女性が好みで、「金目当て」と公言しつつも、無意識のうちにキャタリーナに興味を持っていたんじゃないかと思うのです。実際、彼は淑女のビアンカには全く興味を示していません。

 そしてキャタリーナに会ったペトルーチオは勝手に彼女を「ケート」と呼び、一方的に結婚を決めてしまいます。


ペトルーチオ 待てよ、ケート、逃げなくたっていいだろう。
キャタリーナ いいかげんにしないと怒るわよ、さあ、放して。
ペトルーチオ 放すものか。きみはなんてやさしい人だろう。
 暴れん坊の高慢ちきのむっつり屋と聞いていたが、
 噂ほどあてにならないものはない、本物のきみは、
 明るくって楽しくってこの上なく愛想がいい、
 おとなしくってかわいくって春咲く花のようだ、
 その顔ではしかめ面などできやしない、その目では
 にらもうったってむりな話だ、その唇では腹を立てた
 小娘みたいに噛めるものか。

(原文)
PETRUCHIO Nay, hear you, Kate: in sooth you scape not so.
KATHARINA I chafe you, if I tarry: let me go.
PETRUCHIO No, not a whit: I find you passing gentle.
'Twas told me you were rough and coy and sullen,
And now I find report a very liar;
For thou are pleasant, gamesome, passing courteous,
But slow in speech, yet sweet as spring-time flowers:
Thou canst not frown, thou canst not look askance,
Nor bite the lip, as angry wenches will,


 この場面のペトルーチオの立て板に水のような褒め言葉は実際のキャタリーナとは正反対のことをわざと言っているのですが、これが彼女には衝撃だったはずです。それまで、周り中から「お前は妹と正反対の乱暴者、嫁のもらい手などない」と言われ続け、自らもふてくされてヤケになっていたのですから。

 そして極め付けが、結婚式直後のペトルーチオのこの台詞です。

だがこのかわいいケートだけはおれが連れて行く。
いや、おどそうが、地団太踏もうが、にらもうが、
やきもきしようがむだだぞ。おれのものは断じて
おれのものだ。そしてこの女はおれの所有物だ。
おれの家財道具だ、おれの家具調度だ、おれの家邸(いえやしき)だ、
おれの畑だ、納屋だ、馬だ、牛だ、ロバだ、おれの
なんでもかんでもだ。この女に手を出せるものなら
出してみろ、このパデュアでおれにたてつこうとする
思いあがったやつには、いつでも相手になってやる。
(略)
かわいいケート、おまえに指一本ふれさせるものか、
たとえ百万人こようとおれが身をもって守ってやるぞ。

(原文)
But for my bonny Kate, she must with me.
Nay, look not big, nor stamp, nor stare, nor fret;
I will be master of what is mine own:
She is my goods, my chattels; she is my house,
My household stuff, my field, my barn,
My horse, my ox, my ass, my any thing;
And here she stands, touch her whoever dare;
I'll bring mine action on the proudest he
That stops my way in Padua.
......
Fear not, sweet wench, they shall not touch
thee, Kate:
I'll buckler thee against a million.


 「この女はおれの所有物だ」(She is my goods) という台詞だけ読むと、女を物扱いするなんて最低だこの男、と思いそうになるのですが、その後を読んでいくと、「おれの○○だ、△△だ」と並べたて、しまいには「おれのなんでもかんでもだ」、すなわち「ケートはおれにとってすべてだ」と言っているのです。一見男尊女卑の所有物宣言が、いつの間にか熱い告白になっているんですね。ここまで言われて感動しない女性はいないでしょうし、単なる財産目当てでここまでの台詞が出てくるとは思えません。キャタリーナは自分を初めて結婚相手として見てくれたペトルーチオに魅かれ、ペトルーチオも金目当てのはずが無意識のうちにキャタリーナに惚れこんでしまっているのです。

 この後のペトルーチオによる「じゃじゃ馬ならし」は下手するとDV一歩手前なんですが、ペトルーチオの良い妻になろうとキャタリーナが心を変えたことに彼が気づいていないのだと思います。もっと言うと、最後まで気づいていません。ペトルーチオはあくまでも「じゃじゃ馬」キャタリーナを思い通りに飼いならしたつもりでいる一方で、キャタリーナは夫を立て、喜ばせることを覚えて円満な夫婦関係を築き、幸せになろうとしています。こう考えると、「ならされた」のは実はどちらなのか、分からなくなってきます。シェイクスピア、恐るべしです。

 そういえば、マクベスの妻はかなり気が強いですし、「ヴェニスの商人」のポーシャも夫を手のひらの上で転がすタイプなので、「夫は妻より偉い!」とシェイクスピアが思っていたとは考えにくいですね。
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comments

お久しぶりです!

昔、同名のドラマがあったなーっと思いつつ・・・初めてあらすじを読ませていただきましたv-7

かなり情熱的な告白ですよね!
一度言ってみたいなと思いつつ、なかなか巡り合わないのか。
愛情の表現って色々あるけど、
すぐに諦めたりせず、最後まで面倒を見る(?)
何があっても連れ添うのが大事なんですね^^
今では問題視されるけど、この場合のDVもそれなのかなぁ・・・と。

黒騎士さん、お久しぶりです♪
シェイクスピア作品の愛情表現ってどれも情熱的だなぁと、読むたびに思います。さすが詩人ですよね。
キャタリーナとペトルーチオは最初は全く合わなそうに見えるのに、最後には仲良し夫婦になるんですら相性って分からないものですね。好きな相手と一緒にいるために互いに悪戦苦闘する、というのが「じゃじゃ馬ならし」のメインテーマなのかなぁと思います。

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奈津

Author:奈津
198X年生まれ。
フリーランス翻訳者。
関心は雇用(特に若い世代の)とか日本語の変遷とか。
家の周りは田んぼです。

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