名詞たちの「形容詞な活躍」

4日の朝刊に能の記事が載っていて、見出しに「幽玄な舞」とあったので「幽玄って形容動詞だったかなあ」と思い、字引を繰ってみると、名詞であり形容動詞でもあるので、「幽玄の舞」「幽玄な舞」どちらもありのようでした。この見出しがなぜ目に留まったのかというと、名詞に「な」を付けて形容動詞(ナ形容詞[※])化する用法が最近よく見るような気がしていて、これもそのパターンかと思ったからでした。例として思い付くのは「ニュースな人」「旬なトピック」「アートな空間」などでしょうか。ナ形容詞化しなければ「ニュースの人」「旬のトピック」「アートの空間」になるはずです。

(※ 日本語が母語でない人に日本語を教える場合、形容詞は「白い」「優しい」など「い」で終わる「イ形容詞」と、「優雅な」「活発な」など「な」で終わる「ナ形容詞」の二つがあると説明されます。日本語母語話者に対する日本語教育では前者を形容詞、後者を形容動詞と呼びますが、「イ形容詞」「ナ形容詞」と考える方が分かりやすいと思うので、ここではその言い方を使います。)

しかし最近多いとは言っても、かつて(すぐに廃れたとはいえ)「ナウなヤング」のようなナ形容詞化もあったわけですから、ここ数年の傾向というわけでもなさそうです。

外来語に「な」を付けて形容詞化したものというと「フレッシュな顔ぶれ」「エレガントな装い」等も思い浮かびますが、これらはもとの言語においても形容詞なので、すんなり形容詞化できるのです。

そして、もともと名詞だとも、形容詞だとも言えない、二股をかけたような言葉もあると思います。「エコ」は名詞(「エコロジー」の短縮形)のはずですが、「とってもエコ」のような言い方がされるようになって形容詞に近づき、「エコな暮らし」なんてオール電化のパンフレットに書いてありそうですし。「ロックな生き方」というのも、まあ、ありかもしれません(どんな生き方かよく分かりませんが)。

では今後、「名詞+の」が次々とナ形容詞化して「数学な先生」「バスな運転手」「ビルな最上階」みたいな言い方が出てくるのかになるのかというと、これはやはり変でしょう。

私見ですが「AなB」と言った場合「Aな」は必ずしも客観的な事実ではなく、話し手が受けた印象を主観的に述べているように思います。 「アートの空間」なら間違いなく芸術作品が置かれていそうですが、「アートな空間」はそうとは限らず、なんとなくアートっぽい雰囲気を感じる、という程度でもいいのです。ですから、「バスな運転手」や「数学な先生」がおかしいのは、それが誰が見ても変わらないことであり、そういう場合は「の」を使うべきだからでしょう。「ブルーの日」というと(あまり見たことのない言い回しですが、あえて意味を考えると)「ブルーの服を着る日」くらいでしょうか。一方「ブルーな日」だと「憂うつな日」です。「ブルーの日」ではこの意味にはなりません。

と、ここまで書いて「日本人の日本語知らず。」(清水由美著、世界文化社)をパラパラ見てみると、日本語教師の清水さんも同じようなことを書かれていました。

「昭和」という語をそのまま名詞として使って「昭和歌」と言えば、それは昭和の時代に作られた歌ということになりますが、形容詞として「昭和歌」と言ったらどうでしょう。実際には平成の御世に作られた曲かもしれなくても、昭和っぽい、昭和の空気をまとった歌ということを言いたいのだろうな、と分かります。


「ナ形容詞は主観を述べる」の一例と言えそうです。そういえば、ナ形容詞を逆に名詞化するというのも最近はあるんですよね。「キレイを手に入れる」とか。ただこちらはあまり例が思い付きません。「キレイのために」みたいな用法が多いようだと、「名詞と形容詞の垣根が低くなっているようです」と書いてうまく締めくくれるのですが、毎回そううまく行くことはありません。もしそういう例があれば教えて下さい。

記事中で紹介した本。面白いです。

日本人の日本語知らず。日本人の日本語知らず。
(2010/11/26)
清水由美

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テーマ : ことば - ジャンル : 学問・文化・芸術

10月の目標達成

デイリーヨミウリに応募した、かな?1回。
あとは覚えてません。もう記録も残してないし。
プロフィール

奈津

Author:奈津
198X年生まれ。
フリーランス翻訳者。
関心は雇用(特に若い世代の)とか日本語の変遷とか。
家の周りは田んぼです。

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